地金を研磨する感覚

人が切る以上、地金をけがいた線の通りに糸鋸でキレイに切るのは不可能である。

ポイント

ちなみにけがいた線とは、切りたい箇所に目印を付けること。
その目印を頼りにデザインを整えていくのだ。

なので、地金を切った後、必ずおこなうのが、やすりで地金を削る、” やする ”という研磨の作業である。

研磨するために使う彫金工具は、

  • 鉄工ヤスリ・ダイヤモンドヤスリなどの棒ヤスリ
  • リューターに差し込んで使う研磨用の先端ビット
  • 耐水ペーパーヤスリやスポンジ研磨材などのシート型のヤスリ

などが代表的だ。

地金の厚みや削り具合によって、この道具を使い分けて理想の形まで削って整えていく。

しかし、この研磨という作業、以外と苦戦している方が多い。

けがき通りに削れないのだ!

そこで今回は、ヤスリでデザインを整えるときに、ボクがどんなことを考えているのか、このやする感覚や技術的な視点をお話しようと思います。

うまく研磨できない理由とは

やする作業がうまくできない方に、その理由を尋ねてみると、

「どこを削れば整っていくのかが判らない。」
「やっているつもりなのだがそうならない。」

という答えがもっとも多かった。

どこを削れば整っていくのかが判らない!?

そんなあなたは「完成未来予想図」となるその最終的なデザイン(かたち)というものが、しっかりと頭の中にイメージ・把握できていないのかもしれない。

左側が地金を切り抜いた正面画像ですが、この地金には、右側のようなデザインイメージがけがかれている。

まずは、けがき線が残るように余裕を持って切り取られていることが条件となる。

そして、そのけがき線からはみ出した地金部分を削り出してデザインを整えていく流れになる。

 

頭の中で完成した全体像をイメージしながら、

「今やすらなければいけないところはどこなのか?」
「ここはこの位やすっておいて様子を見よう」

など、全体を常に意識しながら、個々のバランスが崩れている原因箇所を修正していくように研磨していきます。

やっているつもりなのだがそうならない!!

さて、やすり方の流れは判ったけど、でも、やすってみたけどそうならないのはどうして!?

逆にどんどん歪んでいくような・・・

こんなことが起こってきます。

 

じつはあなたが頭で考えている、指令を送っていることと、体が反応する(動いている)ことに、若干のズレが生じているのです。

誰もが起こることなので心配はありません。

が、けがき線の位置までにこの感覚のズレを修正しながら研磨して整えていく必要があります。

 

例えば、この下の画像は2mm厚の地金板の断面図です。

赤線がけがきの整え線です。

このけがき線よりも余裕の位置で真っ直ぐ切ったつもりが、右斜めに切れてしまったとしましょう。

まだ整え位置のけがき線より余裕があるので、これを鉄工ヤスリで直角に真っ直ぐになるように整えていきます。

これが修正です。

しかし、直角真っ直ぐに鉄工ヤスリを当てたつもりでしたが、今度は左斜めに削れてしまいました。

直角に当てて削っていたつもりなのに、実際には斜めに削れていた、これが感覚のズレですね。
まだ、けがき線までは余裕があるので、修正を加えていきましょう。

すると今度は、「あれっ?丸くなってきちゃった!!」

まだ感覚のズレが修正できていないようです。

このように、自分が感じている感覚と実際に削れた角度を確認して、そして軌道修正を繰り返し、直角にヤスリ面が当たる位置を体で導き出していきます。

そして「これだっ!」と角度が決まったら、上下にヤスリをこする時にその角度がズレていかないように頭の中で「今、当たっているヤスリ面」をイメージしながら、削ってみるのです。

この感覚のズレの修正作業を、整えるべきけがき線上までに終わらなければいけません。

修正ができずにけがき線を越えてしまうと、デザインが崩れてしまうというわけです。

 

まとめ

デザインを正面から見て、けがき線からどこがはみ出して歪んでいるのかを見極め、いざ研磨。
断面の角度を同時に意識しながら削り、その修正がピタリとけがき線までに整えられれば、思い描いた通りのデザインに仕上げられます。

まずは直角に削る練習を繰り返し、ヤスリが直角に当たっている感覚を体に覚え込ませよう!