第1章6 スキルマスターへの道

第7話 彫金のベクトルはどこへ向いている?

もずく先生
「これから本格的に彫金を習うキミたちに、誰もが陥りやすい落とし穴についてお話します。」

「そのまえにちょっと誰か、部屋のカーテンを閉めてください、先生また眠っちゃうから。」

ナリトがカーテンを閉めると、もずく先生がゆっくりと語りだした。

「みなさんは自分自身を器用だと思っていますか?」

「彫金の基礎を学んでいくとね、
この作業向いてるな~って思うような自分が得意とする技法のものと、
出来ることならこの作業は避けたいな~と思うような苦手とする技法のものが分かってくるようになる。

そして、その得意とする技法を使って自分はどんなものが作りたいのか、
どんなふうに売っていきたいのかなどが、おぼろげながら見えてくるんですよね。」

「しかし、器用にこなせる人ほど、
『まだまだいろいろな技法を覚えて、どんどんデザインの幅を広げていきたい!』
そんな欲が出て、さらなる技術や知識を学ぼうとしてしまうのですね。」

 

「ワタシもかつてはそうでしたが、それ、” すべてを学びたい病 ”に侵されかけているんです。」

 

「基礎が定着してきたら、まずはこれだって思うジャンルを決めて、それをある程度まで極めていく方が効率が良いのです。プロとして商売をしていきたいのなら、尚更です。」

「それではちょっと、違う視点から考えてみましょうかね。」

 

「あなたは、ショッピングモールに来ました。中に入ると、いろいろなお店が並んでいます。」

「ほとんどのお店は、食べ物屋さん、洋服屋さん、雑貨屋さんなど各ジャンルの専門店が入っている。さら分類すると、食べ物屋さんなら、洋食・和食・中華などに分かれていることでしょう。」

「ショッピングモールは、専門店の集合体ですよね。」

「もしあなたが、あれもこれも取り揃えているようなアクセサリーのお店やブランドをやりたいなら、このショッピングモールみたいに大規模で展開していかないと、中途半端な品揃えとなり、お客さんは魅力を感じてくれないでしょうね。」

「こんなことは規模が大きくなった企業がやればいいのです。」

「逆に、この商品なら誰にも負けないこだわりの一品が提供できます!的な専門店なら、それに興味がある人は、ちょっと気になって覗いてみたいと思うはずです。」

「さらに、気に入ってもらえたらお得意さんになってもらえるかもしれません。」

重要

「個人から始めるような起業家は、まずは1つに特化して、その1つを皆が注目するぐらいまで磨き上げる、高めていくことが大切なんです。

あなたは何を学んで何をして商売としていきたいのか?

はっきりと目標となるものを見つけて行動することが重要です。

そのベクトル(方向性)が決まれば、今やるべきこと、今はやらなくていいことを振り分けることができます。

あれもこれもと、知識や技術を学ぶことが必ずしも大切なことではありません。

色々と覚えても、それを血や肉として自分の体に吸収してすぐに活かしきれなければ、それはただの物知りな人で終わってしまいます。

1つでも良いので、自分が自信を持って輝けるものを身につけて、突き詰めて自分のものにしてみてください。

1つ極めるとそこから道が見えてきます。

さらに進んでいくと思いがけないところから、『次のステップの道に進んでいいよ!』って、お誘いを受けることが起きたりしますから。

そこではじめて、極めたことを踏まえたなにか新しいことに、チャレンジしてみても遅くはないんじゃないのかな。」

生徒たちは思い思いの考えに耽っている。

と、突然教室にモモンガのジュエリルが飛び込んできたかとおもうと、
ナリトに封筒を渡し、また教室の外に飛び去っていった。

封筒には肉球の封印が押してあった。

ナリト
「もしかして、これって?」

ナリトは封を開け、中から手紙を取り出した。

手紙

お待たせした!例のモノが完成した、至急集まれよ

ユフィリー
「出来たって!?」

ナリト
「そうみたいだね。」

ぱたぱたともずく先生がやってきて

もずく先生
「もうお別れかい。そうかそうか・・・」

ナリト
「短い間でしたけど、ありがとうございました。」

と、教室のドアのほうから物凄い音がしたかとおもうと、
そこにはドアに挟まっているデラックス先生が・・・

デラックス先生
「ちょっとちょっと!」

ナリト
「ど、どうしました!?先生」

デラックス先生
「結局、私のワックス講義一度も聞かずに行っちゃうわけ~」

ナリト
「そういえば、そうですよね。」

デラックス先生はナリトを手招きした。

デラックス先生
「これ、今のあなたにはちょっとレベル高いけど、課題ね。」

そう言うと先生はナリトのバッジにスキルのかけらをかざした。

実践課題

立体造形彫りの真骨頂を体得せよ!

今回の課題 ワックスペンの盛り付けスキルとスパチュラの削り出しスキルを使い分けて、緻密なデザインを作り出そう。 今まで学んだ道具のスキルをフル活用して、繊細でリアルなデザインを表現できるようになろう。 ...

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「”蟹は甲羅に似せて穴を掘る”っていうけど、あなたなら大丈夫。」

蟹は甲羅に似せて穴を掘る
人は自分の身の丈に合った、考えや行動をとることが一番良いということのたとえ。

デラックス先生
「いってらっしゃい」

 

第8話 集結

森の回廊からナリトとユフィリーがやってきた。

ガウディ
「来たな。」

レオナルド
「アカデミアはどうだったかい?少しはスキルは上達できたのかい?」

ガウディ
「いよいよ、この時が来たようじゃな。」

「ジュエリルワールドの世界へと旅立つ日じゃ。」

ここはドリームハーフのちょうど中心に位置する共鳴の大木、
ガウディ、レオナルド、ユフィリー、そして、ナリトが揃ったのだ。

 

ユフィリー
「ちょっぴり寂しいな」

ナリト
「なんでだい?」

ユフィリー
「ボクはここでお別れだもん。」

レオナルド
「ユフィリーよ、本来、彫金アカデミアである生徒は、
導いた者とはここでサヨナラなのだが、
課題半ばにして本人にバレて、判定が不能となったしまった。」

レオナルドはガウディを睨むと、ガウディはバツの悪そうな顔で微笑んだ。

ガウディ
「というわけで今回は特別に、 ナリトのサポート役として、
ジュエリルワールドへ一緒に同行してもらい、
課題の再判定をする運びになったんじゃ。」

レオナルド
「ユフィリー、異存はないかい?」

ユフィリー
「はい!!もちろんですとも。」

ナリト
「よかったね。」

ユフィリーは嬉しそうに何度も頷いた。

ガウディ
「さてナリトよ、そなたにはジュエリルワールドに行き、
散らばっているスキルのかけらを見つけてきてほしいのじゃ。」

「この試練を通して、ネオ・カルマレイとしての適格者かどうかを判断する。」

「ここで辞退しても構わんが、どうする?」

「もちろん、いきますよ!」

ガウディはレオナルドを見て頷いた。

レオナルド
「それじゃ、これを二人に」

ナリトとユフィリーに指輪を渡した。

ユフィリー
「わぁ~!」
ナリト
「これがジュエリルリングですね!」

二人はうれしそうに自分の指輪を見せ合っている。

レオナルド
「ジュエリルワールドの世界はね、
それぞれ違った特徴を持った海によって、大きく2つのエリアに分かれている。 」

「青や緑などのワックスが溶けた色をした海をワックス海、
シルバーやゴールドなど貴金属が溶けた色をしている海を地金海(じがねかい)と呼んでいる。」

「その海の特徴から、その名前が付いたとされているんだな。」

「そして、海と海の堺目の水は、
混ざらずにハッキリと分かれているんだよ。
そこがエリアの分かれ目となっているのさ。」

「しかし、この世界はまだ知られていないことが多くてね。
どうやら他にもまだエリアが存在する可能性が高いんだよな。」

「ナリトには、かけらを見つけ出すと共に、
未開エリアの調査もお願いしたいんだ。」

ガウディ
「しかし、ナリトとユフィリーだけで、
この広大なジュエリルワールドの世界を冒険するのは、ちと荷が重すぎる。」

レオナルド
「そこで、もう一人、仲間が来ることになっている。」

「もうすぐ、来る頃なんだけどな。」

突然、空から何者かが飛んできた。
颯爽と降り立つと、まばゆい光とともに、その姿があらわになった。

ナリト
「ダリ!?」

ダリ
「やあ、ナリ、久しぶりだね。」

ナリト
「もしかして、キミが仲間ってこと?」

ダリは頷いた。

レオナルド
「さて、それでは、役者も揃ったことですし、始めるとするかな。」

「お~い、ギキュウ~!」

ギキュウ
「揃ったのかい?」

ナリト
「ん!?」

共鳴の大木の穴から、あの合成屋のリスが現れたのだ。

ナリト
「ギキュウって、校長の名前がたしかGikyuじゃ・・・」

ギキュウ
「そだよ。私は彫金アカデミアの校長でもあるのさ。」

「まあ、アカデミアは任せっきりだけどね。」

「では、皆の衆、持ってきたかな?」

ガウディ、レオナルド、ダリ、そしてギキュウは、
それぞれが持ってきたものを取り出した。

ダリ
「南の鳳凰ルビー」

レオナルド
「北の玄武オニキス」

ギキュウ
「東の青龍サファイア」

ガウディ
「西の白虎ダイヤ」

4つの宝石のかけらだった。

それぞれを1つに重ね合わせると、4色が1つになった珠となった。

そして、共鳴の大木に開いた穴に、それをはめ込むと、
穴という穴から、まばゆい光が放たれ、
大木は生き物のようにうごめいた。

ギキュウ
「師匠が目覚めるよ~」

 

第9話 それぞれの使命

龍の尻尾のようなカタチの黄金色に輝いた共鳴の大木が、うごめいている。
誰かが思念通話で話しかけてくる。

謎の声
「導かれし者か」

ガウディ
「ええ」

謎の声
「適格者にはなれそうかい?」

ガウディ
「行かせてみないことには。」

謎の声
「そうだな」

「ナリトよ」

「カルマレイ族の話は、聞いているか?」

ナリト
「ええ、人間の世界から逃れてきた生き物たちをジュエリルに変えて、
ジュエリルワールドに逃してあげたっていう話ですよね。」

謎の声
「そうだ。」

「カルマレイ族は、アイテムを使わなくてもジュエリルに変身できる、
パーフェクトジュエリルという唯一無二の存在なのだ。」

「彼らが、なぜジュエリルワールドという世界を作ったのか?」

「その本当の理由を教えてやろう」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

イメージが頭の中に浮かんでくるのがわかる。

横たわった年老いた黄色い龍のジュエリルの側には、
虎と黒猫のジュエリルがいる。
そして、それを取り囲むようにして、
様々は龍のジュエリルたちが集まっている場面だ。

黄色い龍
「我々カルマレイもな、おぬしと同じく人間なんじゃ。」

「いつまでもこのジュエリルワールドの世界にいてはいけなかったのだよ。」

「ガウディよ、この世界は、なぜ出来たと思う?」

虎ジュエリルのガウディは首を横に振った。

黄色い龍
「我のような古きカルマレイはな、
時が来ると、パーフェクトジュエリルとなり、
ジュエリルワールドへと旅立っていくのだ。」

「やがてはそこで、スキルのかけらとなるためにな。」

「この世界でスキルのかけらとなり、
次を担う若きカルマレイに、自分のすべてを受け渡すためだ。」

「若きカルマレイはこの世界に訪れて、スキルのかけらを手に入れていく。」

「そして、そのカルマレイもまた、
同じように旅立ちの時を迎え、
スキルのかけらへと帰っていくのだ。」

「そうやってカルマレイの持っている知識と技術は、
繰り返し繰り返し受け継がれてきた。」

「このジュエリルワールドの世界はな、
誕生と継承と終焉を迎える神聖なる場所、
そう、カルマレイ族そのものだったのだよ。」

「しかし、この世界に生き物たちを受け入れた優しさと、
人間世界から住む場所を奪われ、このジュエリルワールドで暮らさなければならなくなったことが、
皮肉にも、この世界の秩序を乱してしまったのだ。」

「ジュエリルワールドでは、ジュエリルの姿であらねばならない。」

「よって、この世界にいる限りは、
カルマレイ族も、この龍のジュエリルのまま、実を結ぶしかなかったのだ。」

「パーフェクトジュエリルになるには、
カルマレイ同士じゃなければなれないのだよ。」

「それが時代とともに、
パーフェクトジュエリルは、
他のジュエリルたちとも実を結び出してしまい、
純血なカルマレイが少なくなってしまった。」

「パーフェクトジュエリルでない限り、
スキルのかけらにはなれないのだ。」

「誕生と継承の秩序が乱れてしまったのだ。」

「このままでは我々の受け継いできた知識と技術は、
いつしか途絶えてしまうだろう。」

「もうカルマレイ族だけが、
このスキルのかけらを受け継いでいくことは限界なのかも知れん。」

「ガウディよ、おまえに頼みたいことがある。」

「時代が完全に変わりゆく前に、なんとか
この世界に散らばっているすべてのスキルのかけらを見つけ出し、
1つにまとめ上げてほしいのだ。」

「そして、おまえが選んだ人間の中から、
カルマレイとして相応しい適格者、
” ネオ・カルマレイ ”を見つけ出し、
そのものたちにすべてを受け継がせるのだ。」

黄色い龍は、少し苦しげな表情をして、

黄色い龍
「このままでは、もうすぐ我もスキルのかけらとなってしまうだろう。」

「そうなる前に、
故郷であるドリームハーフに連れて行ってもらいたい。」

「そしてこの命が終わりを告げたとき、
その地に我を埋めて、そこにこの種を蒔いてくれないか。」

黄色い龍は、一粒の種をガウディに渡した。

「我はこの世界へと導く、ジュエリルゲートとして生きよう。」

「そして、お前たちはゲートの鍵となるのだ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

違う映像が流れてきた。

ガウディが、ドリームハーフの中心にいた。

足元には、こんもりと土が盛られている。

ガウディはそこへ族長からもらった種を蒔いた。

すると、
すぐに芽を出し、
やがて苗木となり、
すくすくと育って大木となったのだ。

そして、赤と青と黒と白が混ざり合った色の果実が実り、その果実は地面に落ちて4色に割れ、宝石のかけらとなった。

ナリト
「これってさっきの宝石のかけらですよね?」

謎の声
「そうだ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

また違う映像が流れてきた。

大木の前に、集まっている者たちがいる。

ガウディとレオナルドとギキュウ、
それに・・・フィガロの姿。

ガウディ
「ワシとレオナルドは、人間世界から適格者を探してみることにする。」

ギキュウ
「ボクは、適格者を育てる学校を作る、それと・・・」

ギキュウは大木を見上げ、

「師匠をお守りするよ。」

ガウディ
「オマエはどうするのじゃ。」

フィガロ
「俺は自分の国を作る。そして、俺なりのやり方で適格者を見つける。」

ガウディ
「そうか」

レオナルド
「それじゃあ、その時が来たら、皆ここに集まることにしよう。」

そう言うと、それぞれが宝石のかけらを受取り、4方向へと散っていった。

 

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第一章7 スキルマスターへの道

第10話 若かれし頃の記憶 ここは賑やかな城下町。 肩に黒猫を乗せた若者が、兵士の後ろをついて歩いていた。 レオナルド 「いや~すごいな、ここがお前の生まれ故郷か!」 ガウディ 「シッ!ダメだよ、ここ ...

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全ストーリー
手作りアクセサリーの作り方が身につく彫金世界~ジュエリルワールド

物語を読みながら、彫金の知識や技術を学ぶことが出来ます。 序章~彫金に導かれし者 第1章~スキルマスターへの道

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