第1章4 スキルマスターへの道

第5話 終わりよければすべて良し

講義の始まりのチャイムがアカデミア内に鳴り響いた。

ぞろぞろと同じクマの格好をしたジュエリルたちがそれぞれの教室に入っていった。

少し経って教室の外からなにやら鼻歌が聞こえてくる。

「隣の芝生は青いけど~♪」

教室の前で鼻歌がとまり、ガラガラガラ~とドアが開いた。

ふとっちょなアンドリューサルクスのジュエリルが立っている。


アンドリューサルクス
約4000万年前から3500万年前のモンゴルに生息していた、史上最大の陸生肉食哺乳類の候補の一種である。

訝しげな顔つきでドアを眺めると、「ハァ~」とひとつため息をつき、ドアに対して体を横に向けると、「ス~」と息を吸い込みお腹を引っ込めながら、やっとのことでドアをすり抜けてきた。

「なんでこう、ここはどこも狭いんだろうね~」とブツブツ言いながら、黒板の前に立った。

アンドリューサルクスのジュエリル
「ふぅ~、みなさんはじめまして。」

「ワックススキルマスター科の講師として今日からこのアカデミアに着任した " デラックス "です。」

「よろしくぅ!」

性別不明の先生に周りはざわついている。

ユフィリーもナリトも少し驚いた様子でデラックス先生を見ている。

デラックス先生
「え~みなさんは普段、どんなふうにコンテンツに取り組んでいますか?」

「自宅で一人黙々とスキルを磨く、これを日課にしていくのってなかなか難しいですよね~」

「毎日実践できれば、そりゃ上達の早道かもしれませんが、立場や環境もクマそれぞれ。皆が皆、毎日机に向かって彫金作業ができるわけでもありません。」

「とはいっても、コンテンツに取り組まなければ、スキルはいっこうに上達しないのも確かですぅ。」

「毎日の積み重ねが大事ということですね~」

「これをなんと言ったかな・・・たしか~・・” 50歩100歩 ”?」

50歩100歩
《戦闘の際に50歩逃げた者が100歩逃げた者を臆病だと笑ったが、逃げたことには変わりはないという「孟子」梁恵王上の寓話から》少しの違いはあっても、本質的には同じであるということ。

ユフィリー
「 積み重ねても意味がないってことになりますけど。」

デラックス先生
「ん~・・・あっ! " 千里の道も一歩から "ですね。一歩一歩の積み重ねが大切ですね。」

千里の道も一歩から
「大きな事柄でもまずは目の前のことをこなすところから着実に努力を続けていけば成功する」という意味になります。 どんなことでも一歩ずつ、着実に進めることが大切だという意味です。

ユフィリー
「” 継続は力なり ”ですね。」

継続は力なり
続けることの重要性、たゆまず、くじけずに続けていくことの大切さを述べた表現・格言です。

デラックス先生
「ナ~イスフォロー!」

デラックス先生はユフィリーにウィンクした。

「特に習い始めの頃は質よりも量が大事なのですが、それでもなるべく効率の良い質の高いやり方をしていきたいところですね。」

「そこで今日はワックス・地金に共通するスキルを上達するための効率の良いコンテンツの取り組み方を紹介しようと思います。」

と、デラックス先生は黒板に書くと、

デラックス先生
まずは最低でも週に1回、コンテンツを実践する日を用意します。

「さて、ここからは実践する日にする具体的な方法なんだけど、まずは” コンテンツ ”をインストールします。」

「ここで言うインストールとは、『コンテンツの動画やテキストに目を通し、そして実際に作業をしながらスキルを習得していくこと』を言いますよ。」

「ここで注意したいのが、実践日にインストールできるのは1コンテンツだけです。」

「他の動画やテキストに目を通すのもダメですよ。」

「パソコンで例えるとね、一度にあれこれとソフトをインストールしまくっていると、処理能力が落ちて動作が重くなるでしょ。
ソフトを1つ動かしたいだけなのに、ものすごく時間がかかってちゃう。

皆さんの頭もパソコンと同じで、あれこれと詰め込みすぎると脳の処理能力が落ちちゃって、一つのスキルさえなかなか覚えられなくなってしまうのよ。」

「なので、” コンテンツは実践日に1つだけ!それ以外のコンテンツは見ない!一切!! ”」

「” 一日一善 ”です。」

「ワタシゃ一膳じゃ腹の足しにもならんけどね。」

ユフィリー・ナリト
「 ・・・??」

一日一善
「1日に一つの善行をして、それを積み重ねるようにしなさい」という呼びかけ。

デラックス先生
「ところで皆さん、工具は揃っていますか?」

生徒たち
「ありま~す」「まだ、揃っていませ~ん」などの声が飛び交う。

デラックス先生
「とにかく工具がないと何も始まりませんから、すぐに揃えるように。」

「” 急がば回れ ”ですよ。」

ナリトの心の声
『回っちゃうの!?』

急がば回れ
急いで物事をなしとげようとするときは、危険を含む近道を行くよりも、安全確実な遠回りを行くほうがかえって得策だということ。

ユフィリー
「ここは、そう!善でしょ、先生!善はいそ」

デラックス先生
「急げ・ね・・” 善は急げ ”・・ですね。」

善は急げ
良いと思ったことは、ためらわずただちに実行するべきだということ。

ユフィリーとナリトは大きく頷いた。

デラックス先生
コンテンツ実践中は、分からないこと・疑問に思ったこと・気づいたことなどが出てくるでしょう。

そんな時は出てきたことを記憶をおさめる媒体にダウンロードしてください。

そして、残りの6日間の空いてる時間を利用して、ダウンロードした内容をチェックして、答えを導き出します。

答えはまずは自分なりに調べ、それでも理解できないようならば、先生にアドバイスをもらいましょう。

 

「この一連の流れが効率的にスキルを上達させるためのコンテンツの取り組み方です!」

 

ナリト
「あの~質問なのですが、” 記憶をおさめる媒体 ”とは何なのでしょうか?」

デラックス先生
「お~う、良い質問ね!」

「メモ帳・ノート・ボイスレコーダーなどいろいろな媒体があるんだけど、先生のオススメは・・・」

外人がしゃべるように流暢な発音で、

「エバァァノートゥ!!」

ナリト
「エバァァノートゥ?」

デラックス先生
「イエ~ス!良い発音です!エバァァーノートゥ!!」

ナリトの心の声
” もしかして、エバーノートのこと? ”

デラックス先生
「スマホで使える無料アプリですね!」

「すでに使っている者はその機能の素晴らしさをご存知のはずだけど、先生が感動したのは・・・」

「録音機能!!」

「先生、制作中にふとひらめくことがあるんだけど、そんな時にわざわざ工具を一旦置いて、ペンに持ち替えて記録するっていうのは面倒なのよね〜」

「書くまでのあいだに思いついたことを忘れちゃったり、書けたとしても殴り書きなもんだから、読み返したら解読不能だったりするわけ。」

「これじゃあ、ひらめきのお宝、持ち腐れでしょ。」

宝の持ち腐れ
役に立つものや、すぐれた才能を持っていながら、それを活用しなかったり、発揮せずにいることのたとえ。

「だから、ひらめきが去っていく前にサクッと録音しちゃうわけよ。」

「その声をあとでじっくりと聞いて、頭を整理するってわけね。」

「あとは・・・・」

「作業中に、” ココ大事だから、画像におさめておきたい! ”ってことがある。

「そんな時に、すぐさまスマホで撮って、撮った画像に言葉を添えて、保存しておくことができちゃう。」

「解説付きの画像だから、後で見返したときにその時の作業イメージが思い出せるのよね。」

「この機能も、結構使っているかな。」

「まあとにかく、使い方はそんなに難しいもんじゃないから、やりながら慣れていけばいいのよ。」

「” 住めば都 ”って言うでしょ!」

住めば都
どんなに辺鄙な場所であっても、住み慣れれば都と同じように便利で住み心地がよいということのたとえ。

ユフィリー
「 それを言うなら、” 習うより慣れろ ”ですよね。」

習うより慣れろ
人や本から教わるよりも、自分が練習や経験を重ねたほうが、よく覚えられるということ。

デラックス先生
「そうとも言うわね。」

ナリトの心の声
『惜しい~、ニュアンスは近いものがあるんだけどな。』

デラックス先生
「ワタシの講義が終わったら、早速エバァァーノートゥ、始めてみてね!」

「急がばまわ」

ユフィリー
「らず、善は急げですよ!!」

間髪入れずのツッコミが教室内に響いたとき、

ガラガラガラ

教室のドアが開くと、パタパタと”もずく先生”が飛んできた。

もずく先生
「いや~、すいません、急いできたんですが~」

もずく先生、デラックス先生と目が合うと、

「あれ?デラックス先生、どうしたんですか?」

デラックス先生
「そういうもずく先生こそ、講義中に何の御用ですか?」

もずく先生
「いや~また寝過ごしてしまって・・・はて?デラックス先生の講義は、隣のクラスじゃありませんでしたかな。」

デラックス先生
「へ?」

デラックス先生は、ツカツカと教室を出ていくと、隣のクラスに入るや否や、また戻ってきた。

デラックス先生
「すいませ~ん!隣のようです。」

一言そう言って、

「隣の芝生は青いけど~♪隣のクマも皆同じ~♪」

鼻歌まじりにそう言いながら、デラックス先生は隣の教室へと消えていった。

もずく先生
「さて、皆さん、講義の時間ももう僅かなので、今日はコンテンツを一つ渡して終わりにしますかな。」

「糸鋸の切り方についてのコンテンツです。」

「コンテンツの取り組み方ですが・・・」

ユフィリー
「もずく先生!」

もずく先生
「はい。ユフィリーくん」

ユフィリー
「コンテンツの取り組み方は、先ほどデラックス先生から聞いたので大丈夫です。」

ユフィリーはナリトを見てささやいた。

ユフィリー
「今日は不思議な講義だったけど、最後はコンテンツも取り組み方も揃ったね。」

「”終わりよければ・・・」

ユフィリー・ナリト
「すべて良し”」

二人は声を揃えてそう言うと、ニッコリと笑った。

終わりよければすべて良し
結末さえよければ、その過程でいざこざや失敗などがあっても全く問題にならないの意のこと。

実践課題

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第1章5 スキルマスターへの道

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