序章4~彫金に導かれし者

第5話 タートルバック

ナリトたちは、北の森のパヴェ回廊を歩いていた。

だいぶ歩いただろうか。

しばらくすると、森で囲まれた薄暗いパヴェ回廊の先が、次第に明るくなってきた。

どうやら、回廊の出口が近づいたようだ。

森の回廊を抜けると、そこは白い砂浜が広がっていた。

しかしパヴェの道だけは、砂浜を突っ切るように波打ち際まで延びていて、その1キロ先の前方の海には、町の建物と島が融合された小さな島が浮かんでいた。

まるで、亀が浮かんでいるかのようだ。

ナリト
「これがもしかして!タートルバック!?」

波打ち際までやってきたナリト

岸に打ち寄せ、沖の方へと返る波間から、パヴェの道が見え隠れしている。

ユフィリー
「道はこの先も続いていそうですね・・・」

しかし、その先はもう海だ。

ナリト
「どうすればいいんだろう?」

周りを見渡しても、船が係留している様子もない。

ナリト
「泳いで行けってこと?・・・てことはないよね。」

ユフィリー
「島から連絡船でも来るんじゃないでしょうかね。」

ナリト
「ここで少し様子をみましょうか。」

ナリトたちは、道の脇の砂浜に腰を下ろした。

するとそこへ、森のパヴェ回廊から、一匹の黒猫がやってきたのだった。

小さなショルダーバックを背負い、首輪を付けていた。

海で途切れたパヴェの道の前に座ると、目の前に浮かぶ島をじっと眺めている。

ユフィリー
「あの島から飼い主が来るのを、待っているんですかね?」

黒猫はこちらを見ると、

「潮が引くと、この先に道が現れるんだよね。」

ナリト・ユフィリー
「エッ!?」

ナリトたちはびっくりした。

黒猫
「しゃべるアクセサリーより、しゃべる猫の方が珍しいですかな?」

黒猫は毛づくろいをしだした。

ナリト
「あっあの~・・潮が引くには、どのくらいかかるんですか?」

黒猫は、ショルダーバックの中から懐中時計を取り出し、

黒猫
「完全に引いて、道が現れるまでには、あと半日はかかるかな。」

ナリト・ユフィリー
「え~!!」

ユフィリー
「なにか他に島に行ける方法はありませんか?」

「例えば・・船で渡るとか。」

黒猫
「船は出ていません。」

ユフィリー
「泳いで渡るのは?」

黒猫
「北の海は冷たいですよ。」

ユフィリー
「ふぅ~・・こりゃ待つしかありませんね。」

黒猫
「そうですね。」

ユフィリー
「参りましたね~。レオナルドがいる島が目の前だっていうのにここで足止めとは。」

黒猫の耳がピクンと立ち、背中を反らしお尻を突き上げる猫ポーズをとると、すくっと2本足で立った。

黒猫
「レオナルドに何の用ですかな。」

ナリト
「知っているのですか!?」

黒猫
「ええ。」

ナリトは小包を取り出すと、中を開け、” ワックスで出来た指輪の原型 ”を取り出した。

ナリト
「これをレオナルドに渡してほしいと、ガウディって人に頼まれたんです。」

黒猫は目を細めると、

黒猫
「ほう~!これは、” ジュエリルリング ”の原型ですか。」

ナリト
「ジュエリルリング?」

黒猫は語りだした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はるか昔、この世のすべてのものにいたわりの言霊が宿っていた頃。

人間はもちろん、動物などすべての生き物たちが、言葉をしゃべり、共存共栄する世界であった。

しかし共存共栄の心を失った人間が現れて、その秩序を破り、世界を二分してしまったのだ。

人間が支配する世界と、そして、すべての生き物たちが共存共栄する世界。

共存共栄の心を持った人間もいたが、次第に、人間が支配する世界に、その心を奪われていってしまった。

人間以外の生き物たちは、徐々に行き場を失くしていくのだった。

遂に彼らの中には、言葉を喋ることを棄て、人間に服従してまでも、共存して生きようとする者が出てきてしまったのだ。

そんな時、カルマレイという種族は、自分たちの持っている知識と技術と特殊な能力で、ある世界を作り出していた。

その世界を、ジュエリルワールドと呼んだ。

追いやられた生き物たちは、カルマレイ族と出会い、命が宿るアクセサリーに変えてもらい、その世界で暮らすことができたのだ。

カルマレイ族は、このジュエリルワールドの守り人として、人間世界の片隅の孤島でひっそりと暮らすのだった。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

黒猫
「これが、このドリームハーフに伝わる言い伝えさ。」

「私は追いやられた生き物の末裔なのさ。」

「カルマレイ族はね、私たちのご先祖様に、” あるもの "を作ってくれたんだよ。」

「それが・・・命が宿るアクセサリーに変身できる指輪。」

ナリト
「ジュエリル・リングですか。」

黒猫
「そういうこと。」

「ジュエリルワールドはね、ジュエリルリングを持つ者だけが行ける世界なのさ。」

「私も、そして、あなたもね!」

そう言うと、黒猫はショルダーバックから指輪を取り出し、腕にはめた。

全身が光り輝いたかと思うと、猫のジュエリルの姿になっていた。

黒猫
「改めまして、私が猫のジュエリルの” レオナルド ”です。」

 

第6話 差し出せるもの

猫のジュエリルとなったレオナルド。

漆黒の輝きを持つ体と青い瞳の宝石を持つ黒猫のアクセサリー。

レオナルド
「ガウディとは、もう古くからの友人なんだ。」

「キミも導かれたんだね」

ナリト
「?」

レオナルド
「最近、ジュエリルワールドへ、スキル探求の旅に出たいという者が後を絶たない。」

「しかし、中途半端な気持ちで行くもんじゃないんだよね。」

「時間は有限だよ。」

「キミはスキルを覚えて何がしたい?」

「具体的な計画はあるのかな?」

ナリトはなにも言葉が返せなかった。

レオナルド
「具体的な目標が無い者がこの世界へ入ると、スキルコレクターとなってしまい、自分を見失うことになってしまうよ。」

「スキルコレクターの成れの果てを知っているかい。」

「スキルのかけらを集めることだけが生き甲斐。集めた数がその者のステータスだと勘違いしてしまうんだな。」

「見つけたという達成感で満足してしまい、肝心な実践作業をおろそかにしてしまうんだよ。」

「スキルのかけらはね、集めるだけじゃなく、これをどう自分の中に吸収して、活用していくかが大事なんだな。」

「そこのところがポッカリと抜けてしまっているんだよ。」

「キミは大丈夫かな。」

レオナルドは、ナリトの顔をまじまじと見ると、ニッコリと笑い、

レオナルド
「まあいいでしょう。」

「まだ、行けると決まったわけではないのでね。」

ナリト
「?」

レオナルド
「私の祖先は、今まで暮らしていた世界を捨てるという勇気を差し出した。だから、新しい世界を手に入れるための指輪を持つことができた。」

「もしキミがこの先に進みたいと願うならば、なにかを差し出す勇気はお有りかな。」

「キミが今、差し出せるものとは何だい?」

ナリトは考えていた。

レオナルド
「少しキミの本気度を見せてもらってもいいかな。」

「じつはこのガウディから受けとったワックスの原型だけじゃ、ジュエリルにはなれないんだよ。」

「このワックスは、鋳造してはじめて、ジュエリルリングとして完成するんだ。」

「完成させるためには、指輪となるための材料を調達してこなければならないのさ。」

「私にキミの行動力を差し出してもらえるかな。」

「材料を取ってきてほしいんだ。」

「やってみるかい?」

ナリト
「やってみます。」

レオナルド
「あと、もう一つ。」

「お友達のクマちゃんも、差し出してもらいます。」

ナリト
「えっ!?」

レオナルド
「ここからは、キミ一人で行動してもらうってことです。」

「それでも行きますか?」

ナリトは頷いた。

レオナルド
「いいでしょう。」

「それでは、詳しい話をしましょう。」

「ジュエリルリングは、

  1. 奇跡のDNA
  2. ジュエリルワールドの海から採れた笹吹き(ささぶき)
  3. パーフェクトジュエリルの粉

この3つを混ぜ合わせて作ります。」

「東の森のパヴェ回廊の先に、” 彫金アカデミア ”というクリエイターとなるための学校があります。」

「そこで、” 笹吹き ”を手に入れてきてください。」

「あと、キミに2つほど、約束を守ってもらうことがあります。」

「1つ目の約束は」

「キミは彫金アカデミアでは、このクマちゃんの名前を名乗ってください。」

「2つ目の約束は」

「私の名前は言っても構いませんが、正体は絶対に口外しないでくださいね。」

「さてと、これは餞別です。」

レオナルドはマスターストーンを渡した。

マスターストーンを手に入れた!

ワックス原型制作スキルBIG4

レオナルド
「このマスターストーンには、ワックス原型制作で使う糸鋸・ヤスリ・スパチュラ・ワックスペンの4つのスキルのテクニックが刻まれている。」

「ただし、今は中身を見ることが出来ないからね。」

ナリトはマスターストーンにスマホをかざしてみた。

すると、なにやら文字が浮かび上がってきた。

サイゴハ、ウンニマカセロ

ナリト
「運に任せる?」

レオナルド
「この言葉の意味をよ~く考えるんだよ。」

 

第7話 閉ざされた門

共鳴の大木へ戻り、そこから東にパヴェ回廊を歩いていくと、ズラリと横一面にそびえ立つ壁が見えてきた。

近づくにつれ、その大きさに圧倒された。

この壁では、回り込むことも、登ることもできないだろう。

歩いてきた道は、壁まで続いているようだ。

壁の前まで辿り着くと、そこには小さな鳥居の形をした奇妙な門とその両脇には狛獅子の像が置かれている。

この先を進むには、どうやらその門を通るしかないらしい。

しかし、人間のナリトの大きさでは到底通ることはできない大きさなのだ。

しかも、門は閉まっている。

ナリトはどうしたものかと考えていると、

「これなるは、彫金アカデミアのジュエリルゲート。そして、我らはこの門のゲートキーパー。」

「阿吽(あうん)である。」

この狛獅子の像は、ジュエリルだった。


「ここから先は、入校証を持つ生徒か、特別な許可がないもの以外は通すことができん。」


「おまえは何者だ?」


「名を名乗るがよい!」

ナリトはレオナルドから言われた約束を思い出した。

” 彫金アカデミアでは、クマちゃんの名前を名乗ってください。”

ナリト
「ユ、ユフィリーです!」


「ちょっと待っておれ。」

阿は、しばらく目を閉じ、そしてパッと目を開くと、


「スキルマスター科の生徒だな。」


「なぜ、ジュエリルにならない。」

ナリトは困惑していた。


「もしかして!入校証バッジを忘れてきたのか!?」

ナリト
「すいません。」


「いくらおまえがここの生徒だったとしても、バッジがなくジュエリルになれない者は通すことはできない。」

ナリト
「そんな・・・」


「まあ、そうがっかりすることもないぞ。」


「おまえが本当の生徒だという証拠を示せばよい。」


「我らが出す問題に正解したら、” 入校証バッジ ”を渡そう。」

ナリト
「ホントですか!」


「では、問題!」

問題

我が彫金アカデミアの校長の名はなんと言う?


「吽よ!こりゃさすがに簡単すぎやしないか。」

ナリト
「校長の名前ですか・・?」


「まてまて冗談だ。この問題はなしなし!」

ナリトの独り言
「(ふう~助かった)」


「我らの校長の名は” Gikyu ”だな。」


「さて、仕切り直しだ。」


「そのGikyu校長のもとに、伝説の原型師と鋳造師なるものが、ある頼みをしに来たのだ。」


「その頼みというのが、あるマスターストーンに閲覧ロックをかけてほしいということだそうだ。」


「どうやらそのマスターストーンには、ワックス原型制作で使う4つのスキルの重要なテクニックがおさめられているって話だ。」

ナリト
「・・・ん?」


「伝説の二人が持つマスターストーンとあって、” スキルハンターたち ”が狙っていたらしい。」

ナリトの独り言
「(このマスターストーンってレオナルドからもらったやつだよな。)」


「そこで校長は、中身が容易に見られないようある仕掛けを考えた。」


「校長は我らに、このマスターストーンのカギとなるよう命じられたのだ。」


「我ら、始まりと終わり」


「どちらかがロックをすれば、どちらかが解除をする。」

阿吽
「さあ、問題だ。」

問題

マスターストーンの解除を任されたのは、阿と吽のどっち?

阿吽
「正解したら、” 入校証バッジ ”をやろう。」

ナリト
「正解の確率は五分五分か・・・さあどっちだ。」

ふとナリトの脳裏に、レオナルドの最後の言葉が思い浮かんだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオナルド
「この言葉の意味をよ~く考えるんだよ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ナリトはレオナルドにもらったあのマスターストーンを取り出した。

マスターストーンに浮かび上がった言葉を思い出す。

サイゴハウンニマカセロ

ナリト
「サイゴ・・」

「始まりと終わり・・・・」

「サイゴハ、ウン・ニ・マカセロ」

「どちらかがロックをすれば、どちらかが解除をする。」

「サイゴ・・・解除・」

「そうかっ!キミだったのか!」

阿吽
「さあ、我らのどちらが答えかわかったようだな。」

ナリト
「はい!」

「最後は、吽に任せろ(サイゴハウンニマカセロ)」

ナリトはそう言って、ゲートキーパーのひとりを指さした。


「正解だ。」

「我が彫金アカデミアの校長の命を受け、マスターストーンの解除を任されているのは、ゲートキーパーの 吽 である。」

ナリトは吽に、マスターストーンを見せた。


「おお~!そのマスターストーンは!なぜおまえが持っている?」

ナリト
「レオナルドに譲り受けました。」


「レオ殿を知っているのか!?」


「知り合いなのだな・・・そうか・・スキルマスター科のおまえに渡したってことは・・・」

吽は黙り込み、しばらく考えていた。


「ほれ、約束の入校証バッジだ。」

そう言うと阿の口から舌がのび、その舌の上にバッジがあった。

ナリト
「ありがとうございます!」


「こいつを胸につければ、いつでも変身できるぞ。」

ナリト
「変身?・・胸・・ですか・・・」

ナリトがバッジを受け取ろうとしたとき、


「ちょっと待て!レオ殿の名を知るスキルマスター科のユフィリーよ」

「おまえを信じよう。・・マスターストーンを我の口に。」

ナリトはマスターストーンを吽の口に近づけた。

すると、吽の口が開き、マスターストーンを「パクッ」と咥えた。

ナリト
「えっ!」

そして・・・吞み込んだ。

ナリト
「うそっ。」

吽はそのまま目を閉じて、黙ってしまった。


「さてと、解除している間に、ロックもしておかないとな。」

「スマホは持っているかい?」

ナリト
「ええ、持ってますけど・・・」

そう言って、スマホを取り出したとき、

阿の舌がギュンっと伸びたかと思うと、舌でスマホを巻きつけ、バッジもろとも口の中に放り込んだ。

ナリト
「あっ!」

阿の口の中で「バキバキガシャグシャ」とモノが砕ける音がする。

ナリト
「ちょっちょっと、なにするんですか!」

阿は口の中のモノを「ゴクリ」と呑み込み、目を閉じて、眠ってしまった。

「あ~~~・・・まじか~」

 

阿吽はナリトがなにをやっても動じずに眠ったままだった。

しばらく沈黙が続く。

 

ナリトはうなだれていた。

すると突然、阿吽の目が見開き、目が光った。


「お待たせした。受け取るがよい。」

吽の口が開き、中からバッジが出てきた。


「バッジとスマホはロックされ、今同期している状態だ。」


「これでバッジからでも、スキルのかけらや御珠、マスターストーンとリンクできるようになったぞ。」

ナリト
「あの~ボクのスマホは?」


「スマホはこのバッジの中だ」
「バッジの裏側にあるボタンを押すのだ」

ナリトは言われたところを押してみた。

すると、バッジが収納バッグに変身した。
バッグの中には、スマホとレオナルドからもらったマスターストーンが入っていた。


「この中にスマホを入れておくだけで、バッジと同機する。
手に入れたスキルのかけらや御珠、マスターストーンなども収納しておける便利なアイテムだぞ。」

ナリトは今までのスキルのかけらや御珠、マスターストーンをバッグに収めた。

 

閲覧ロック解除されたマスターストーンを手に入れた!

ワックス原型制作で使われる4つのスキルの知識が刻まれた叡智である。

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